脳卒中対策基本法はなぜ必要か      東京大学名誉教授 上野正

結論として、この基本法が是非とも必要な第一の理由は脳卒中の被害が並外れて大きい事です。

 

脳卒中は癌、心臓病と共に三大国民病と云われ、患者も死亡者も多い。死亡者はようやく年間12万人に減りましたが、脳卒中のため介護が必要な患者は総ての病気の中で最も多い。病気全体の410万人のうち脳卒中患者は92万人、2割以上と最多です。

特に、最も重い要介護4と5の患者全体107万人のうち34万人3割以上が脳卒中患者です。癌の2万人、と心臓病1.5万人とは全く違います。脳卒中ほど後遺症に苦しむ患者が多い病気はありません。

 

 第二の理由は、脳卒中医療が大きく進歩した結果、しっかりした対策を取れば非常に良く治るようになったのに、依然として多くの犠牲者が出ている事です。

 

今は脳卒中医療が大きく進歩したお陰で、発病直後の急性期から良い治療が受けられれば、以前には考えられなかった程良く治るようになりました。然し実際には、多くの患者がこのような治療を受けられず、多数の死亡者や重い要介護者が出ています。

例えば、脳卒中の7割以上という脳梗塞の強力な特効薬t-PAがありますが、発病後4.5時間以内しか使えないため、間に合う患者はごく僅かです(5%程度)。発病に気付くのが遅かった。救急搬送された病院が直ぐ専門的治療を開始出来なかったなど。

 

 第三の理由は、しっかりした脳卒中対策を取るには、国が責任を持って対策の基本を定め、国と地方自治体が責任を持って実行する事が必要だからです。このためには、基礎となる法律が必要です。

 

個別の地方自治体や、民間団体の個々の努力だけでは到底実現出来るものではません。

 

次回は、急性期の対策の例を見つつ、その重要性をお伝えしていきます。